(C)Les Films du Lendemain / Shanna Besson

“近代彫刻の祖”とも評されるオーギュスト・ロダン(1840.11.12〜1917,11.17)。彼が国から「地獄の門」の制作を依頼されたころから晩年の10年間を描いたロダン没後100年記念作品。ロダンの創作へのあくなき意欲が妻、愛人、モデルたちとの女性関係をとおして見つめている。だが愛憎のしがらみに苦悩しながらも、常に創作への情熱を先立たせるロダンの姿は、晩年の大作「地獄の門」のモチーフに選んだダンテ「神曲 地獄篇」そのままに、終わりのない苦悩から生まれた芸術のようにも見えてくる。

【あらすじ】

独学で彫刻の技法を修練した長年の下積みを経て「青銅時代」で彫刻家として認められたロダン(ヴァンサン・ランドン)は、1880年に国立装飾美術館建設に関連して初めて国からモニュメントの制作を依頼された。ダンテの『神曲 地獄篇』をモチーフにして「地獄の門」の構想に悩むロダンは、女性彫刻家としての才能を認める弟子であり愛人でもある二十歳そこそこのカミーユ・クローデル(イジア・イジュラン)に時折り意見求める。常に率直な意見を求められるカミーユは「『地獄の門』は非道徳的です。人物たちは欲望見満ちている…」と答える。ロダンとカミーユとの関係はさらに深まりパリの街にも噂は広まっていく。

「地獄の門」にはめ込む人物像は増えていき構想はなかなか定まらない。一方で、ビクトル・ユゴー記念像や「カレーの市民」などロダンの工房は制作に活気づいていた。だが、「カレーの市民」に対する評価は厳しかった。作品に対する評価に惑わされることなく作品の芸術性を追い求めるロダンの周囲には、モネやセザンヌなどともに芸術を語り合い、励まし会える者もいた。

何年も帰っていない自宅には4歳年下の内妻ローズ・ブーレ(セヴリーヌ・カネル)がいる。ロダンが24歳の時に出会い、息子ブーレを授かっている。お針子で文盲だったローゼとは不遇のベルギー時代を共に暮らし、ロダンの芸術観を啓発したイタリア旅行にも同行した。一方のカミーユは、家におさまり忍耐強いローズとは正反対なタイプ。モネのモデルもつとめた美貌の人で彫刻家を目指しロダンの創作にもインスピレーションを与えていた。ローズの存在を知りながらロダンに結婚を迫る情熱的な女性だった。

(C)Les Films du Lendemain / Shanna Besson

1891年、フランス文芸家協会会長のエミール・ゾラのコネクションでバルザック記念像の制作依頼を受けたロダン。作品に生命力が感じられるまで精魂込めるロダンだが、最初に提示したバルザック像はあまりのリアルさに協会は受け入れず、制作に7年を費やしていく。カミーユは、数か月も工房を離れロダンを悩ませた挙句、“契約書”と称して約束事を書き記して結婚を迫るが、ローズと別れようとしないロダンに約束を履行するとは思えないことも感じ取っている。カミーユは、ロダンの工房を去り一人の彫刻家として工房を開き作品を発表するが…。

【見どころ・エピソード】

本作の邦題にはサブタイトル~カミーユと永遠のアトリエ~がつけられている。ロダンと弟子カミーユとの愛人関係が有名なだけに男女のありがちな激しい情念の物語と見誤れないようにと願うところです。ジャック・ドワイヨン監督は、ロダンが終生連れ添った4歳年下のローズの苦悩と彼女のカミーユに対する嫉妬もしっかり描いている。ドワイヨン監督、ヴァンサン・ランドンはともにロダンと2人の女性との愛憎劇というよりもロダンの芸術への情熱と晩年に至ってもバイタリティあふれるロダンその人を描くことに傾注している迫力が存分に伝わってくる。

「地獄の門」と「バルザック」像の制作を中核に「カレーの市民」や「考える人」などロダンの作品群が工房のあちらこちらに登場する。日本には国立西洋美術館の「地獄の門」、「考える人」、「カレーの市民」や箱根・彫刻の森美術館の「バルザック」像などロダンの作品を所蔵・展示している美術館が各地にある。人が生きることへのダイナミズム、内奥にみなぎる情念と官能性を彫刻の一瞬に凝縮させたロダンの作品にあらためて触れてみたい。【遠山清一

監督:ジャック・ドワイヨン 2017年/フランス/120分/映倫:PG12/原題:Rodin 配給:松竹、コムストック・グループ 2017年11月11日(土)より新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://rodin100.com
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*AWARD*
2017年:第70回 カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品。フランス映画祭2017上映作品。